たかだ脳神経外科・内科クリニック

茨城県笠間市赤坂に開院。たかだ脳神経外科・内科クリニックのスタッフブログです。

新規認知症治療薬「レカネマブ」について

当院では認知症診療にも力を入れており、日本認知症学会専門医2名(院長、副院長)が在籍しています。

秋には認知機能検査や認知症の方々の生活のサポートに関しても新たな取り組みを検討しています。

 

そこで大きなニュースが飛び込んできました。

エーザイ社が米バイオジェン社と共同開発したアルツハイマー認知症の治療薬「レカネマブ」が2023年8月21日に厚労省の専門部会で「承認」が了承されました。

抗アミロイド抗体である「レカネマブ」はアルツハイマー認知症の患者さんの脳内に蓄積する「アミロイドβ」というタンパクを取り除き、病気の進行を緩やかにする効果があると言われています(認知症が治るわけではないので注意が必要です)。

エーザイ社の大規模グローバル臨床第Ⅲ相検証試験である「Clarity AD試験」では、1795人の早期のアルツハイマー認知症(軽度認知障害+軽度アルツハイマー認知症)を対象とした18ヶ月間の検証で、2週間に1回レカネマブを点滴投与したところ、偽薬と比較して臨床症状の悪化を27%抑制することができたとの報告があります。(NEJM2023)

またこの点滴投与により軽度の状態を2−3年維持することができ、施設等への入居を回避できる可能性もあるとのことでした。

これまで様々な治療薬の開発が試みられましたが、今回の「レカネマブ」の承認は認知症治療において歴史的な出来事です。

現在使用可能な抗認知症薬は症状を一時的に改善することで症状進行の時期を遅らせるのみでしたが、「レカネマブ」は原因物質に直接作用するため、長期的に認知症の進行を抑える効果も期待されています。

 

しかし問題点も何点かあります。

 

1つ目は費用です。

世界に先駆けて2023年7月6日には米食品医薬局FDAで正式承認されていますが、価格は患者さん1人あたり年間約380万円に上ります。

日本では薬価算定はまだされていませんが、年間数百万円になると言われています。

しかし日本では高額療養費制度があり、アメリカに比べると患者負担は抑えられますが、医療費は国の医療保険財政を圧迫するとされており、薬価の算定は調整が難航すると言われています。

 

2つ目は適応をどうするかです。

軽度認知障害(MCI)や早期のアルツハイマー認知症(AD)を正確に診断することが大切になります。

そのためには脳内のアミロイドβの蓄積を評価する必要があり、アミロイドPETや髄液検査が必要になる可能性があります。

アミロイドPETは現在保険適応もなく、検査可能な施設は限られており、また費用は高額になります。

髄液検査であれば、神経内科脳神経外科の医師は日常的に行う検査であるため当院でも可能ですがどうなるでしょうか。

 

3つ目は副作用です。

これまでの報告では脳腫脹や脳出血の危険性が指摘されており、治療前・中・後のMRIによる画像評価が重要と考えます。

 

いずれにしても認知症診療において非常に期待される画期的な薬剤であり、当院としても動向を見守りたいと思います。